太陽です。
今回は、引きこもりからいきなり就職して大失敗した話、3部作の2回目です。
引きこもりから大工を目指して大失敗した僕の実話。大工の見習いとして、現場に行くのですが、そこでの経験が壮絶でした。現実というものを知ることになります。
この時の経験は、いまだに苦い記憶として思い出します。
目次
前回までのあらすじ
2010年8月。28歳になった僕は、なんとか引きこもりから抜け出そうと就職を決意する。
たまたま新聞の求人チラシに載っていた、大工見習いの求人に応募する事にした。
面接に行ったら、なんとその場で即採用された!次の日からいきなり働きに行く事になった。
しかし…頑張ろうと思ってるはずの僕の心に、不安な気持ちが急速に芽生えていく。
本当にやっていけるのだろうか…?そしていよいよ、大工見習いとしての初日が始まる。
朝4時に起床。急いで出発の準備をする
目覚ましが鳴った。まだ朝の4時、真っ暗だ。緊張していたのか、ほとんど眠れなかった。
出社時間は午前6時。遅刻してはいけないので、余裕を持って2時間前の午前4時に起きたのだが…どうも朝から不安でいっぱいだ。緊張している。
無理もない。これまでろくに仕事をしてこなかったのに、いきなり働く事になったのだから。
しかも、会うのは初めての人ばかり。中には15歳の少年もいるらしい。
大工の仕事がどんなものかも、全く分からない。正直不安しかない。しかし、やるしかない。
僕はお昼のお弁当を作った。お弁当といっても、大きめのおにぎりを二個作っただけ。あとは、1リットルほどの保冷ボトルにつめたいお茶を入れた。
日の出の時間になり、だんだん明るくなってきた。…さあ、行こう。
出社時間が近づくと、どんどん人が集まってきた
遅刻してはいけないので、早めに事務所に行った。しかしまだ誰も来ていない。
だんだん出社時間の6時が近づいてきた。バイクのエンジン音が聞こえてくる。
そのエンジン音が、だんだんこっちに近づいてくる。2人乗りをしたバイクが、僕の近くで止まった。
顔を見ると、二人ともものすごく若い。昨日、親方が話をしてた、15歳の少年だろうか。僕はその二人に挨拶をしにいった。
その2人の少年とは、最初の挨拶をしただけで、あとは黙っていた。
しばらくすると、一人、また一人と社員さんが出社してくる。僕は一人ひとりに挨拶しにいった。昨日の夜、電話をしてくれた番頭さんもいた。
初めての人ばかりで、なんていうか緊張感がすごい。そういえば昨日、親方は「うちの会社はファミリーでやってる」って言っていた。
ファミリーの中に、初対面の引きこもりの僕が一人。なんていうか、めちゃくちゃ場に居づらい。
6時になると、会社のワゴン車2台に分乗して、建設現場に行く事になった。
建設現場までの車の中で、いきなり洗礼を浴びた
車に乗ると、すぐに出発した。番頭さんが運転している。
ここで、いきなりびっくりすることが起きた。車内のほぼ全員が、突然タバコを吸いだしたのだ。
タバコがかなり苦手な僕は、緊張で昨日ほとんど寝れてない疲れもあって、ものすごく気持ちが悪くなってしまった。
車の中は冷房のため、閉めきってある。窓を開けることもできない…。
となりは15歳の少年だが、平然としている。当たり前といった感じだ。この瞬間に思った。
『正直言って、危険な所に来てしまったんじゃないだろうか?』
車内ではみんなあまりしゃべらず、黙ったまま。ラジオの音だけが聞こえてくる感じ。
みんな次から次にタバコを吸う。それにしても…一体どこの現場まで行くんだろう?何分くらいかかるのか、全くわからない。
僕はてっきり、車で20分くらいの近くの現場かなと勝手に思っていたが全然違ったようだ。
車は走り続け、なんと2時間近くかかる遠い現場に到着した。
近くの市内どころか、他府県に入ってしまった。時刻は、朝8時前。すでに、ものすごく暑くなり始めていた――
番頭さんが僕を見て笑いながら言った。「はは、太陽くん。今日は暑いど~!!」
仕事が始まったが僕は見てるだけ。これがかなり辛い
現場に到着すると、僕以外の全員が仕事の準備を始めた。大工道具を下ろしたり、材料をそろえたりしていた。
中には、電動くぎ打ち機や、それに使うコンプレッサーもあった。
僕も何か手伝おうとしたが…勝手がわからないので、正直何の役にも立てない感じだ。
当たり前かもしれないが、仕方ない。みなさんは手際よく準備を終えて、仕事が始まった。
番頭さんは、図面を見ながら電動丸ノコギリで木材を切断している。他の人は協力しながら、コンクリート土台の上に柱を立て、壁を立て、てきぱき仕事をしている。
僕は見学という名目できているので、とにかく見てるしかない。
みんな一生懸命働いている中、僕だけ座って見学という訳にはいかず…じっと立ちながら、仕事を見学していた。
だが…!仕事が始まって1時間ほど経過したころ。
この「見ているだけ」というのが、実はかなりキツい事に気づいた。時刻は、まだ午前9時。
8時間労働・1時間休憩と計算しても、仕事が終わるのは午後5時だ。あと8時間もある。あと8時間も、立ちつくしたまま作業を見学するのか…!?
もうすでにこの時点で。『大工の仕事、自分には無理なのではないか?』そんな思いにとらわれ始めていた。
気温39℃の地獄。真夏の日差しが僕を焼いてゆく
時を同じくして、もうすでにかなり気温が高く暑い。34℃くらいあるんじゃないか…。
僕は、空を見上げてみた。真っ青な夏の空が広がっている。まさに雲ひとつない。照りつける日差しが、すでに痛い。
周りを見渡してみると…僕は絶句した。
僕が見学をしている所。太陽の光をさえぎるものが、全くない。日陰がないのだ。
つまり僕は、雲ひとつない炎天下、延々と立ち尽くして作業を見学しなければならない、ということが確定した。
みんなは自分の仕事に忙しく、僕の事を気にかけてくれる人は一人もいない。
気の遠くなるような暑さの中…僕は考えていた。
一体どうしてこんな所に来てしまったのか?僕は…もうこの時点で心が折れかけていた。
無理だ。やめたい。やめよう。だんだんと、その思いがどんよりと大きくなっていった――
僕の心はポッキリ折れた。灼熱地獄にて。
12時になり、お昼の休憩に入った。僕は持ってきたおにぎりを食べ、冷たいお茶を飲んだ。
だがここで、1つ重大な失敗をしてしまった事に気づく。
財布を忘れたのだ!つまり、この先のどが渇いても…飲み物を買うことができない!
午後からはさらに暑くなるだろう。今ここで、持ってきたお茶を飲み干してしまえば…取り返しのつかないことになるかもしれない。
冷たいお茶をガブ飲みしたかったが、残りの時間を計算に入れて、少しずつ飲む事にした。
午後に入るといよいよ暑さはピークになった。予報どおり、気温39℃くらいありそう。
電動くぎ打ち機の『バスン、バスン』という音が聞こえてくる。
炎天下にずっといて、太陽の光を浴び続けているせいで、肌がジリジリ焼かれ、だんだん痛くなってきた。ずっと立っているので、足もしびれてきた
ダメだ…逃げ出したい。しかし、今いる場所がどこなのかも分からない。脱走すらできない。
これは…仕事の見学なんかじゃない。もはや虐待、拷問に近い…。こんなのを続けられるはずがない。ムリだ。
灼熱の太陽に焼かれながら、僕は世にも奇妙な物語の「懲役30日」を思い出していた。
そんな時、仕事現場で、アクシデントが起こったのだ。
突然起こったアクシデント。社員さんが病院送りに
なんと…仕事をしていた社員さんの一人が誤って、電動くぎ打ち機で自分の足を打ち抜いてしまったのだ。僕は直接現場を見ていないが、ザワザワしていた。
その人はすぐに、近くの病院に運ばれていった…。
電動くぎ打ち機は便利だが、使い方をミスると恐ろしい事になる…背筋が冷たくなった。
その後も、残った社員のみんなで仕事は続けられた。僕は相変わらず、ひたすらその様子を見学するのみ。
もう8時間は立ったまま。灼熱の太陽にずっと焼かれている状態だ。
僕は午前中に計算したように、午後5時には仕事が終わって帰れると思っていた。帰ったら、すぐにでも親方に電話をかけ、「やめます」と言おう。
だが、午後5時になっても仕事が終わる気配がない。みんな黙々と作業をしている。当たり前だが、「そろそろ終わりましょう」なんて言えるはずもない。
日が傾いてきて、暑さはマシになってきたが…体力的にはもう限界だ。
立ったまま、歯を食いしばって耐える。もうすぐ終わるはず。もうすぐ終わるはず。
結局、仕事が終了したのは午後7時だった。
僕はほぼ12時間を耐え抜いた!これで…もう二度とここに来る事はない!
社員さんの一人が、僕を見てこう言った。「今日一日で、めっちゃ焼けはりましたね!?」
炎天下に丸一日さらされた僕の肌は、チョコレートみたいな色になっていた。
たった一日でここまで黒くなるなんて、初めて知った…。
帰りの車の中で、15歳の少年と話したが…
行く時に車で2時間かかったということは、同じく帰りも2時間ほどかかる。
自宅から事務所までの通勤時間も含めると、通勤・帰宅だけで5時間もかかることになる。
僕の中では、絶望的な叫びが爆発しそうだった。『一体どうすれば続けることができる?いや、絶対ムリだ。』
帰る途中、コンビニに寄ることになった。車内では、僕の隣にいた15歳の少年は上半身裸だったが…なんと上半身裸のまま、コンビニに入っていった。
それを誰も注意する人がいなかった。あまりにも、自分の感性とかけはなれていて、僕はどうする事もできない。
その少年が帰ってきてから、少し話した。
なんでも…その少年は元不良で、中学校でかなり問題を起こして学校にいられなくなり、親方の元にあずけられて、住み込みで働いているそうだ。
なにもかも、僕の住む世界とは違った。
やっと1日が終わった。親方にやめるって電話しよう
長かった1日が、やっと終わろうとしている。
現場から車で2時間、事務所に帰ってきた頃には、午後9時を回っていた。
君はもう帰ってもらっていい、また明日同じ時間に来てくれ…と言われた。『ムリです、もう来れない…』心の中でつぶやいた。
他の社員さん達は、これからミーティングがあるらしい。僕は自転車で20分かけて、家まで帰り着いた。
家に帰ると帰りが遅い僕を心配して、親が待っていた。肌が異様に黒くなった僕を見て、どうしたの?と聞いてきた。
かなり心配してる様子だったが、僕は詳しい事情は言わなかった…。
実は今回の就職活動は、誰にも言っていなかったのだ。
引きこもりを脱出するために、最初から最後まで誰にも言わず、自分の力だけでやりとげようと思っていたからだ。
さて…帰ってきたからといって、まだ安心できない。最後の大仕事が残っているのだ。親方に「やめます」と電話しなければ!
嫌なことはさっさとやってしまった方が良い。かなり緊張するが…親方に電話するしかない!これですべてが終わると思っていた。
しかし…
本当の地獄はここからだった!!
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(引きこもりの就職で大失敗③仕事をやめるまでの地獄の体験で死亡編)↓↓
この記事のまとめ
・大工の見習いで見学に行ったが、見ているだけというのが12時間続いた
・炎天下にずっといたので、たった一日で肌が異様に黒くなった
・自分には何もかも無理だと思って、心が折れた
太陽